各武道に対する私的見解


・楊式太極拳(ようしきたいきょくけん) 

 太極拳というのは,理論的には非常に優れた武道であると思います。しかし,実際には健康体操になってしまっているのがほとんどでしょう。どこかには,太極拳を操る,ものすごい拳法家がいるかもしれませんが,私はまだ会ったことがありません。私が学んだのは簡化24式太極拳だけです。それも中学生のときのことなので,ほとんど忘れてしまいました。たとえ24式でも,極めれば武術太極拳に応用できるということらしいですが,私は勉強不足のため,そこまでは達しませんでした。ただ,体の中心線のとり方,体重移動の仕方など参考になる点は多かったように思います。合気道や大東流と並行して学ぶ人もいるようなので,研究のために体験してみるのも悪くないと思います。この頃は,ジャッキー・チェンやリー・リン・チェイ,ブルース・リーなどのカンフー映画を見まくったものです。通販で手に入れたヌンチャクやトンファーをぶん回して,いい気になっていた愚か者でした。


・和道流空手(和道流柔術拳法)

 いわゆる,伝統派空手四大流派の一つです。柔術の技術を取り入れているところが大きな特徴です。他の流派と比べると,構えが自然体で,受けも柔らかく流すような形が多いように思います。高校の空手部が,たまたま和道流だったので,修行することになりました。とにかく伝統派の空手は,基礎の稽古をみっちりやります。足の裏の皮は数え切れないほどむけました。ここで,武道の基礎となる部分を身につけられたような気がします。ただ,どうしても私は,試合のルールになじめませんでした。「寸止めルール」というやつです。最近TVで全国大会を見たのですが,やはり「寸止めルール」は一般の人にわかりづらいところが欠点です。また,意外に思うかもしれませんが,実はフルコンタクトより危険なルールです。しかしながら,やはり,スピードのある攻撃とそれを見切る選手同士の攻防は,緊張感があり,素晴らしいです。また,伝統派空手の型は非常に美しく,もはや芸術の域に達しています。空手の技術をじっくり極めたい方におススメします。


・極真カラテ

  高校卒業後は,もう空手はやめようと思っていたのですが,故アンディ・フグ選手のかかと落としと,緑健児選手(現・新極真会代表)のファイトを,TVでたまたま見て,「極真カラテをやりたい!」と強く思うようになりました。和道流の黒帯を和道会に返し,白帯から習い始めました。とっぱじめから「何てスゲェところなんだ!」と思いました。白帯の道場生からして既に強く,緑帯の人は無茶苦茶強くて,茶色帯は筋肉ムキムキで,黒帯の人なんか信じられないほど強くて,師範代クラスの人は人間じゃないと思いました。春と夏に合宿があるのですが,これがまた厳しい。朝は腹筋が痛くて起きられないほどだし,しめの補強運動として,拳立て250回,腹筋500回,スクワット1000回とか平気でやるのです。また,このとき,少林寺拳法やキックボクシング出身の方とスパーリングできたことも,いい経験になっています。私は精神力と体力のほとんどを,ここで身につけたような気がします。とにかく,強くなりたい人に極真はおススメです。


・八勝流拳法

 試合形式は,硬式空手とほぼ同じです。スーパーセーフをつけ,ポイント制で勝敗を決します。ただし,ベースは空手だと思うのですが,その他に立禅を行ったり,テコンドーの技術を取り入れたりと,独特の技術体系になっています。顔面突きの技法も空手と少し違います。先生の人柄がにじみ出たような道場で,とても雰囲気がよく,楽しく稽古させてもらった思い出があります。よくみんなで飲み会をしました。硬式空手では全国で通用するような選手もいて,活気がありました。会長先生は気功の達人だということで,(元プロボディーガードで心拳塾代表の清水伯鳳氏と友人だそうです。)一度,気を入れていただいたことがあります。まわりの人たちが,ビクンビクン跳ね上がっているなか,私は何も感じないでしまったのですが,その後,立禅を行うと,手のひらと手のひらの間に粘りつくような感覚がするのを体感しました。もう今では何も感じなくなってしまいましたが…。テコンドーに先を越されてしまいましたが,オリンピック競技に空手を採用するとしたらこのルールがいいんじゃないかなあ,と個人的には思っています。見る方もわかりやすいし,やる方も楽しいと思います。極真で顔面なしのルールに慣れてしまっていた私には,久しぶりに顔面突きの楽しさと恐怖を味わうことができました。ただ,スーパーセーフは距離感が狂うのと,息苦しいのと,顔面突きをくらうとアゴに全ダメージが入ってしまうのが難点です。


・WTFテコンドー

  ハイキックテコンドーには韓国系のWTFテコンドー(現在オリンピックの正式競技になっています)と,北朝鮮系のITFテコンドーがあります。私が習っていたのは前者です。ITFの方は,カナダやアメリカで普及しており,アメリカンカラテは,このITFのルールで行っていることがあるようです。上記の八勝流拳法八勝会で習いました。私は握力が弱くて正拳の握りが甘く,極真カラテの組み手で,両手の親指を何回も亜脱臼しています。そんなこともあり,突きを出すことに恐怖感が出てしまい,苦手意識がありました。そしてもともと,私は突き技より蹴り技の方が好きだったこともあり,テコンドーを習って蹴りを強化したいと思っていた頃だったのです。テコンドーの試合は,とにかく試合中,全力疾走を続けるというイメージです。極真とは質の違う辛さがありました。当時はまだ,オリンピックの正式競技になっていませんでしたが,真面目に,「オリンピックに出てみたい」と思いながら,稽古に励んだものです。本気で減量にも取り組んで51kgまでしぼりました。道場の皆様には大変にお世話になったのですが,就職を機に離れることになってしまいました。教師の仕事は大変だと聞いていたので,3年間は仕事に専念しようと思っていたのです。しかし実際には,予想の何倍も教師の仕事は大変でした。


・天心会館カラテ(芦原流空手)

 極真会館芦原道場茨城支部が独立してできた道場です。芦原会館と違うのは,自由組み手だけでなく試合を行うところです。試合では,衣服をつかんで引き倒すのが有効です。仕事に無我夢中で,武道の武の字も忘れていたのですが,看板の「円のカラテ」というコピーにひかれて,稽古に参加させていただきました。私はここで,初めて「サバキ」という技術に触れるのですが,素晴らしい技術だと思いました。極真時代にわからなかった,十字受けの意味に気づくことができました。現在の私の組み手スタイルに大きく影響を与えています。黒帯の方に,足払いであっさり転ばされ,後頭部を打って脳震盪をおこしてしまったことを覚えています。受け身の全くとれない自分を情けなく思い,受け身が上手にとれるようになりたいと強く思いました。受け身の練習ができる武道がやりたいと思いました。柔道や相撲をやってみたいとも考えましたが、なぜかそのときは、合気道という名前が頭の中に浮かんだのでした。 


・岩間スタイル合気道

 岩間の合気神社で教えています。全世界から内弟子が集まり,剣や杖の稽古を重視することでも知られています。見学後,故斉藤守弘先生は,私の入門を快く承諾してくださったのですが,職場から道場までが遠く(稽古開始時間にどうしても間に合わないので),通いきれなくてやめてしまいました。その後,結婚して住所が変わったのですが,新居の近くに,眞兌道(しんえいどう)という道場を見つけました。そこは中国拳法と空手と合気道を同時に習える変わった道場で,偶然そこの合気道は岩間スタイルだったのです。先輩がとても親切で,マンツーマンで丁寧に教えてくれました。岩間スタイルは非常に固い稽古をするイメージがあります。戦前の力強い稽古の様子がそのまま伝承されているようです。とにかく,思いっきり手首をつかむことから始まります。そして,一つ一つ,丁寧に順序だてて技を施します。後述の実心館合気道とは対照的な合気道だと感じました。合気剣の素振りと組み剣の基本,31の杖なども学びました。武器を扱うのはあまり好きではなかったのですが,とても面白いと感じました。実は,このとき私は,既に合気道S.A.に所属しており,それを隠しながら稽古していました。自由稽古の時には,こっそり後輩とS.A.の稽古をして,その違いを楽しんでいたものです。その後輩は大学で合気会の合気道をやると言っていましたが,その後どうなったかなあ。…と思っていたら、大学合気道部の主将をやっていると、連絡がありました。ここまで、修練を重ねてきた彼に、敬意を表します。昔、ともに稽古をしてきた人間が、活躍している様子を耳にするのは嬉しいものです。


・実心館合気道

 稽古体系から推測するに,気の研究会(心身統一合気道)から独立した合気道団体だと思います。呼吸法や姿勢・気の流れをとても重視します。呼吸投げ系の投げ技を早い段階から学ぶので,上記の岩間スタイルとは対照的です。流れるような美しい合気道を求める方にはおススメです。私はここで、合気道の基礎を身に付けました。姿勢の大切さや呼吸法の仕方、合気道の理念などを学びました。

 余談になりますが,勉強のために,いつか体験してみたいと思っている合気道は以下の通りです。本部合気会の合気道,競技合気道を確立した冨木合気道,手刀打ちに特色のある武田流中村派,S.A.の元となった養神館合気道。その他こんな合気道があるよ,というのがあったら,どなたか教えてください。

 さらに余談になります。最近,初心を思い出したい,原点に還りたいという気持ちが,心の底から強くわき上がってきまして,もう一度,きちんとした指導者の下で,空手を修行してみたいと思うようにもなりました。武道家としてさらに高みを目指すために,必要なことだと感じています。私の原点と言えば,やはり伝統派の空手。今,興味があるのは協会の空手と,日本拳法空手道です。沖縄の地にもいずれ,足を踏み入れたいと思っています。空手の原点である,いわゆる唐手を学んでみたいからです。


・八光流柔術

 八光流柔術は「大東流合気柔術のエッセンスをわかりやすくまとめた武道である」と言えます。習ってみての感想は,武道の未経験者にも技術を簡単に習得できるよう体系だてられた柔術,といったところでしょうか。希望者には指圧の技術も伝授されます。細かい点でかなり違いますが,八光流の初段技は合気道で言う一か条,二段技は二か条と小手返し・四方投げ,三段技は三か条と腕の表側の四か条,四段技は腕の裏側の四か条,に相当します。その後,五段師範技,皆伝技,三大基柱とあるらしいのですが,経済的な理由と時間的な都合のため教われませんでした。推測するに,入り身投げや呼吸投げ,多人数取り,武器取りなどの技が入ってくるのかなあと,勝手に思っています。また,八光流の技術は,他の武道によく影響を与えているようです。日本少林寺拳法の柔法は,八光流のそれとよく似ています。

 それにしても,大東流は合気道を学ぶ上で避けては通れない道でしょう。研究の価値はあると思います。私は,まだ修行が浅いので,「合気」を使うことができません。合気上げという技術についても、まだよく理解できていません。大東流六方会の技術を見ると,すごいなあと素直に思います。ただ、投げられている人が飛んでいるだけではないのか?という疑念も、正直なところあります。ぜひ一度体験してみたいです。


・少林寺拳法

 月1回程度ですが,現在少林寺拳法も並行して修行中です。少林寺拳法高萩道院長の作山吉永先生とのご縁があり,教わることになりました。少林寺拳法は,空手と柔術を合体させたような拳法というイメージでしたが,実際にはかなり違いました。無論,中国北派の少林拳とも全く異なったものです。打撃の理論は,空手とは全く違いますし,体捌きの仕方も独特です。各種の基本技,天地拳,義和拳,竜王拳などの一部を学んだに過ぎませんが,非常に完成度の高い武道だと思いました。特に,天地拳には非常に感銘を受けました。独修を進めることによって,相対稽古がスムーズに移行できるよう配慮された型であり,大変勉強になりました。あくまで,合気道の修行に活かすためというスタンスですが,引き続き勉強していきたいと思っています。


・合気道S.A.

 合気道というと,爺さんか女性の護身術ぐらいにしか思っていませんでした。高校のときは,馬鹿にしてたくらいですし,大学内で稽古をしているのを見かけても,「きれいだなあ,でも投げられる方が飛んでるんだろうなあ。」ぐらいの認識でした。ただ,いろんな本に,「塩田剛三」という人の名前が載っていて,「その人は真の達人だ」と,よく書かれてあるのを目にしていました。ビデオを観てみたら,なるほど,確かにすごい。初めて観た感想はかなり強烈でした。で,その人の弟子が創った団体があるという。何とその団体は試合を行うらしい。それが,合気道S.A.でした。合気道S.A.という名前は,実は記憶の片隅に残っていました。そういえば,前田日明のリングスに所属選手が出ていたのを思い出したのです。当時,なんとなく,「合気道の人が格闘技の試合に出るなんてすごいなあ」と感じたのを覚えています。

 私は空手から入った人間なので,どうも,試合のない武道というものには違和感があったのですが,合気道S.A.は,私の合気道に対する偏見を取り除いてくれました。合気道は,日本の誇る素晴らしい武道です。私はこの素晴らしい武道を,多くの人に知ってもらいたいと思っています。自己流にならないよう気をつけながら,S.A.の技術と理念を,正しく茨城の地で広めたいと思います。

 私がここまで来るまでに,多くの方々にお世話になりました。この場をお借りしまして,深く感謝の意を表し,厚く御礼申し上げます。もし,このページをご覧になって,私のことを思い出していただけましたら,ぜひご一報ください。また,茨城での稽古活動を始めるにあたっては,合気道S.A.代表師範櫻井文夫様はじめ,本部指導員,ならびに各支部の代表の方々に,大変にお世話になりました。一つ一つ丁寧に手をとって,ご指導いただきましたご恩は決して忘れません。特に,S.A.草加の皆様には,白帯の頃から親切に,そしてきめ細かにご指導をいただきました。有難うございました。これからも精進いたしますので,どうぞよろしくお願いいたします。  豊田龍彦  


 

前のページに戻る

指導員紹介のページに戻る