言語活動例(生活思想詩の授業)

          豊田 龍彦

(豊田龍彦修士論文「想像力を養う詩の創作指導に関する研究」より抜粋)

 * ページの都合により,引用文献・論文等は,修士論文本文をご参照ください。


< すぐに使える言語活動例集8 > 

 ① 朝の会で「かえるのぴょん」

 ② 学級開きで「はじめて小鳥がとんだとき」

 ③ 国語の始業時に「口の体操」

 ④ 4月の保護者参観で「かたつむり」

 ⑤ 他教科等との関連で「かぼちゃのつるが」

 ⑥ 詩を書く授業の入門として「すずめ」

 ⑦ 生活を振り返りながら「くりもただ」

 ⑧ 卒業に向けて「たけのこ」

   ※ 5分~1単位時間程度で実践できるものを厳選しました。


~ 詩の授業をやってみたい方へ(2015.1.27記)~

 

現学習指導要領には,言語活動例として「詩の創作指導」が明記されています。

あくまで言語活動「例」なので,必ずしもやらなくてはならないものではありませんが,

それを踏まえ各教科書会社は,教科書の中に詩の創作指導の単元を設定しています。

したがって,国語の教員として,「詩の授業」は避けて通れないものになったと言えます。

 

せっかくやるのであれば,楽しい「詩の授業」をしたい。

そう考えるあなたに,私の研究成果をお伝えします。

ぜひ,子どもの「ゆたかな学び」を実現するために,詩を活用してください。


< 総 論 >

 ― 目 次 ―

1 詩とは何か

2 生活思想詩とは

3 今,なぜ「想像力」なのか

4 詩の授業を行う前に

5 詩の環境づくり

6 詩を読む授業

7 詩を書く授業

8 詩と日記指導


1 詩とは何か

 詩は定義してはいけない,あるいは,するべきではない。という意見があります。

 しかし,子どもに詩を指導する以上,教員自身が詩を理解していなければなりません。

 私は,詩を以下のように捉えています。

  

  ・作者の内面,心の叫びを表現したもの

  ・見ているのに見えていないものを言葉で表現したもの

  ・人生の真実を美として表現したもの

 

 そして,児童生徒に書かせたい詩の姿を次のように定義しました。

 

   想像力(見えないものを見る力)を働かせて発見した感動を,

   自分なりの言葉で表現したもの


2 生活思想詩とは

 私は児童生徒の「想像力」を養うために,

「生活思想詩」の授業を行うことを提案します。

 

「生活思想詩」とは,私の造語です。以下のように定義しています。

 

 ・自分自身の生活を,詩の素材とする。

 ・想像力を働かせて,発見した感動を書く。

 ・新しいものの見方・考え方を提示する。

 

 児童詩の歴史は,北原白秋の提案による「児童自由詩(感覚的写生詩)」が始まりと言われています。

 その後,「生活詩」「生活行動詩」「主体的児童詩(たいなあ詩)」「現代児童詩」など,

 その時代の要請に合わせて,様々なスタイルの詩の授業が提案されてきました。

 「生活思想詩」は,これまでの児童詩の歴史を踏まえて名づけました。

 「生活思想詩」の授業は,「想像力」を養う有効な手段であると考えています。


3 今,なぜ「想像力」なのか

 私たちは,児童生徒に「ゆたかな学び」を保障しなければなりません。

 私たちが求めるべき真の学力とは,

 「競争の学力」ではなく,「共生の学力」です。

 すなわち,一人で何かができるという力ではなく,

 共同的に課題を解決していく力です。

 

 そこには「想像力」の存在が不可欠です。

 かのアルバートシュタインもこう述べています。

 

 「想像力は知識よりも大切だ。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む。」

 

 「想像力」は,「創造力」であり,

 「創造力」は,「生きる力」を高める。

 と,私は考えます。


4 詩の授業を行う前に

 詩の授業を単発で行っても,高い効果は得られません。

 次の4つが,詩の授業を充実させるために,

 必要な前提として考えられます。

 

 一つ目の柱「詩の環境づくり」

 二つ目の柱「詩を読む授業」

 三つ目の柱「詩を書く授業」

 三つの柱の土台「日記指導」

 

 土台である「日記指導」と,

 「詩の環境づくり」「詩を読む授業」「詩を書く授業」の三つの柱,

 それら全てを一体として捉えたものを「生活思想詩」の授業と定義します。


5 詩の環境づくり

 詩を以下の要領で,学級環境に取り入れましょう。

  ・学級文庫に詩のコーナーをつくる。

  ・掲示係にでも好きな詩を選ばせ,色画用紙等に書き写させる。

  ・週替わり程度でいいので,詩のコーナー等に掲示する。

  ・掲示した詩は,後で全員に印刷・配付するか,日記ノートに視写させる。

 

 児童生徒は,自然に詩の言葉,リズム,心を身につけていきます。

 この段階で,自主的に詩を書いてくる児童生徒が出てくることもあります。

 好きな詩を真似させて詩を書かせる(翻作)をさせるのもよいでしょう。

 教員自身の好きな詩を,朝の会等で紹介するのもGoodです。 


6 詩を読む授業

 小中学校で扱う詩は,音読に適したものが多いと思います。

 まずは,音読させましょう。暗唱させるのもよいでしょう。

 次に,詩の形を捉えさせ,気づいた「詩の技法」について話し合いましょう。

 「詩の技法」については,児童生徒には以下のように抑えさせています。

 

  ○ く りかえし → 反復・類比・対比・矛盾

  ○ り ずむ   → 行がえ・語調・韻・文末表現・体言止め・倒置法

  ○ も じ    → 漢字・ひらがな・カタカナ・句点・読点

  ○ た とえ   → 直喩・隠喩・声喩・活喩(擬人法)・視点

  ○ だ いめい  → 詩のゼロ行

 

 日本一の生産量を誇る茨城県笠間市は,

 「栗もただ(くりもただ)」

 と,無理矢理こじつけて覚えさせています。

 詳しくは,<言語活動例集⑦>で説明します。

 

 詩は,人生の真実を美として表現しているものです。

 どんな詩の技法を使って,どんな人生の真実を表現しようとしているのか,

 について,みんなで話し合ってみましょう。

 

 作者の提示する「新しいものの見方・考え方」に気づくことができれば,

 その授業は成功と言えます。

 

 「詩を読む授業」の型としては,

  ア 展開法

  イ 層序法

  ウ 折衷法

 があります。

 

 アは,「『かたつむり』の授業」

 イは,「『かぼちゃのつるが』の授業」

 ウは,「『はじめて小鳥がとんだとき』の授業」

 として,<すぐに使える言語活動例集>の中で紹介します。


7 詩を書く授業

 対象を観察させ,

 「見たまま,感じたまま,ありのままに書きなさい」という指示だけでは,

 児童生徒は詩を書けません。

 (もともとその素養がある児童生徒なら,その限りではありませんが)

 

 「詩の環境づくり」「詩を読む授業」「日記指導」の充実が,

 「詩を書く授業」を成功させるためのカギです。

 

 詩を書くためには様々な方法がありますが,

 今回は以下の方法を提案します。

 

  A 好きな詩を真似し,少し変えて書く(これを翻作と言います)。

  B モデルとなる詩を提示し,同じような形式で書かせる。

  C 日記を素材として詩を書かせる。

  D 将来の夢やなりたい職業をものにたとえて詩を書かせる。

 

 Bは「『すずめ』の授業」

 Cは「『くりもただ』の授業」

 Dは「『たけのこ』の授業」

 として,<すぐに使える言語活動例集>の中で紹介します。


8 詩と日記指導

 児童生徒に詩を書かせるのならば,

 自分の思いを言葉で表現することに慣れておかねばなりません。

 しかし,1年間,学級の児童生徒全員に日記指導を継続するのは至難の業です。

 そこで,私は以下のような「課題日記」の実践を提案します。

 

  ・児童生徒に日記ノートを一冊配る。

  ・週に1回,課題を与え,提出を義務づける。

   (課題:季節や学校行事について,好きな詩の視写など学級の実態に応じて)

  ・毎日の提出は任意とする。

  ・赤ペンチェックは丁寧に行う。

  ・赤ペンで,教員からの質問を投げかけても良い。児童生徒には返答を促す。

  ・良い文章があった時は,本人の承諾を得て,全体に紹介する。

 

 「課題日記」は,本来の「日記」の趣旨からは外れるものかもしれません。

 しかしながら,書く意欲・技術を高める手段として有効です。

 児童生徒は,教員からの反応が嬉しいので,

 自分の思いを言葉で表現することが好きになっていきます。

 そして,言葉を大切にしようとする態度が育まれていきます。

 さらに,自分の思いを文章で表現しきれないと感じた時,

 詩の技法を活用する力が加われば,

 詩が生まれてくるのです。 


< すぐに使える言語活動例集8 > 

   ― 目 次 ―

 ① 朝の会で「かえるのぴょん」

 ② 学級開きで「はじめて小鳥がとんだとき」

 ③ 国語の始業時に「口の体操」

 ④ 4月の保護者参観で「かたつむり」

 ⑤ 他教科等との関連で「かぼちゃのつるが」

 ⑥ 詩を書く授業の入門として「すずめ」

 ⑦ 生活を振り返りながら「くりもただ」

 ⑧ 卒業に向けて「たけのこ」

   ※ 5分~1単位時間程度で実践できるものを厳選しました。


① 朝の会で「かえるのぴょん」

 

「教師が折に触れて好きな詩を紹介する」の実践の中で,児童に紹介した詩の一例を紹介します。

私の好きな詩の一つとして,

児童が陸上競技大会に臨む前に,次の詩を紹介しました。

パワーポイント等を利用すれば,全校朝会等でも使えるネタです。

 

     かえるのぴょん  谷川俊太郎

 

   かえるのぴょん

   とぶのがだいすき

   はじめにかあさんとびこえて

   それからとうさんとびこえる

   ぴょん

 

   かえるのぴょん

   とぶのがだいすき

   つぎにはじどうしゃとびこえて

   しんかんせんもとびこえる

   ぴょん ぴょん

 

   かえるのぴょん

   とぶのがだいすき

   とんでるひこうきとびこえて

   ついでにおひさまとびこえる

   ぴょん ぴょん ぴょん

 

   かえるのぴょん

   とぶのがだいすき

   とうとうきょうをとびこえて

   あしたのほうへきえちゃった

   ぴょん ぴょん ぴょん ぴょん 

 

児童はこの詩を音読することを通して,

リズムの心地よさを楽しむと同時に,

想像を超える「かえる」の姿に驚きを感じていました。

私はこの詩を通して,

人間は最初から自分の限界を定めてしまいがちであるが,

実は無限の可能性を秘めているということを伝え,

陸上競技大会には自信をもって臨んでもらいたいという話をしました。

それ以来,谷川俊太郎の詩に興味をもつ児童が増えたため,

「ことばあそびうた」を紹介し,

国語の授業開始時に全員で音読し,

詩を楽しみながら口の体操(③を参照)

をするといった活動も取り入れました。


② 学級開きで「はじめて小鳥がとんだとき」

 

「はじめて小鳥がとんだとき」の授業方式は,

「展開法」と「層序法」の「折衷法」です。

この授業を通して指導したい詩の技法は「くりかえし」と「たとえ」としました。

 

「はじめて小鳥がとんだとき」の全文は次のようになります。

 

     はじめて小鳥がとんだとき   原田直友

 

   はじめて小鳥がとんだとき

   森は,しいんとしずまった。

   木々の小えだが,手をさしのべた。

  

   うれしさとふあんで,小鳥の小さなむねは,

   どきんどきん,大きく鳴っていた。

   「心配しないで。」と,かあさん鳥が,

   やさしくかたをだいてやった。

   「さあ,おとび。」と,とうさん鳥が,

   ぽんと一つかたをたたいた。

 

   はじめて小鳥がじょうずにとんだとき、

   森は,はく手かっさいした。

 

授業は概ね次のような流れで行いました。

学習活動と教師の発問を示します。

 

(導入)

「はじめて小鳥がとんだとき」を何というか→「巣立ち」

(展開法)

 ① 題名・作者名を板書(以下,ゆっくり音読しながら1行ずつ板書する。)

 ② 2行目〈しいん〉→声喩(オノマトペ)について説明する。

 ③ 3行目「木々の小えだは,なぜ手をさしのべたのか。」

 ④ 6行目「かあさん鳥ととうさん鳥どちらが言った言葉か。」

 ⑤ 8行目「とうさん鳥は何と言うか。」

 ⑥ 7・9行目「かたをどのようにしたと思うか。」

 ⑦ 10行目「はじめて小鳥が…の続きはどうなるか。」

 ⑧ 11行目「森はどうしたと思うか。」

(層序法)

 ① 全文読み聞かせを行い,3連構成であることを説明する。

 ② 1行ずつ追い読み・1行交代読み,一斉読みをする。

 ③ 声喩(オノマトペ)の確認をする。

   比喩(モノのたとえ)との違いも確認する。

 ④ 登場人物を確認する。

   「小鳥」「かあさん鳥」「とうさん鳥」「森(の木々)」「語り手」

   語り手の言葉→地の文

   登場人物の言葉→会話文「 」に書かれていることを説明する。

 ⑤ 2連の対比を探す

   (かあさん鳥―とうさん鳥)

   (うれしさ―不安)

   (小さな―大きく)

   (かたをだく―かたをたたく)

 ⑥ 1連と3連の対比を考える

   (しいんとしずまった―はく手かっさいした)

 ⑦ 再度全員で全文を音読する。   

 ⑧ 対比の中から共通しているものを考える。

   「願い」や「愛」

 ⑨ 人間の本質・真実を考える

   「願い」や「愛」はみな同じ。ただし人によって表現の仕方や様子は違う。

 ⑩ 教師の語り(巣立ちに向けての願い)

 ⑪ この詩についての感想を書く。 

  ※ 時間があれば暗唱させる。

 

この「はじめて小鳥がとんだとき」の主題は,

言うまでもなく子どもの「巣立ち」に対しての周囲の「願い」や「愛」です。

そこで学級通信の題名も,

私の願いをこめて「巣立ち」としました。

これは卒業に向けての伏線でもありました。

卒業式当日には,

本学級の児童に対する卒業へのはなむけとして再度この詩を示し,

私の願いを伝えました。


③ 国語の始業時に「口の体操」

 

今までに授業で行ってきた口の体操を集大成し,

厳選し,整理分類を行い,究極の早口言葉集を完成いたしました。

ぜひ皆さんも挑戦してみてください。 

 

< 初 級 >

  京の三十三間堂の仏の数は三万三千三百三十三体あるという

  心こそ心を計る心なれ心のあだは心なりけり

  桜さく桜の山の桜花さく桜あり散る桜あり

  なせばなりなさねばならぬ何事もなさぬは人のなさぬなりけり

 

< 中 級 > 

  赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ茶パジャマ

  赤巻紙青巻紙黄巻紙長巻紙

  親鴨が生米かめば子鴨が小米かむ

  京の生鱈奈良生まな鰹

  すももも桃も桃のうち

  坊主が丈夫な屏風に上手に丈夫な坊主の絵を描いた

  生麦生米生卵生麦生豆生卵盆豆盆米盆ごぼう

  裏庭には二羽庭には二羽鶏を飼っている

 

< 上 級 >

  蛙ぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ

  どじょうにょろにょろ三にょろにょろ合わせてにょろにょろ三にょろにょろ

  菊栗きくくり三菊栗合わせて菊栗六菊栗

  のら如来のら如来三のら如来に六のら如来

  武具馬具ぶぐばぐ三ぶぐばぐ合わせて武具馬具六武具馬具

  麦ごみむぎごみ三むぎごみ合わせてむぎごみ六むぎごみ

 

< 達 人 >

  ガス撒くバス待つ僕がバスガス爆発で吹っ飛んだ

  お茶立ちょ茶たちょちゃっと立ちょ茶立ちょ青竹茶せんでお茶ちゃと立ちゃ

  高くくった鷹狩ったカッター買った肩硬かった方が高かった肩叩き機買った

  超高速増殖少食長足緑色草食恐竜型の車種3種類と交換した

  中枢抽出手術技術の輸出入中2ミリのミニ耳見に行った

 

< 名 人 >

  あの女の縫う布の名は何あの布は名のない布なのお綾や母親にお謝りなさい

  この竹垣に何故竹立てかけた竹立てかけたさに竹立てかけた

  竹垣に立てかけた戸板に畳を立てかけて日にあてた

  東京特許許可局局長の隣の客はよく柿食う客向こうの客もよく柿食う客うちの客もよく柿食う客 

  諸首相詐称訴訟勝訴記念新春シャンソンショーに出たアンリ・ルネ・ルノルマンの流浪者の群

  

 朝10分間早口言葉推進委員会 編

 口の体操2006 究極の早口言葉集 完全保存版 2006年1月8日(日)のブログより


④ 4月の保護者参観で「かたつむり」

 

この授業は,2013(平成25)年10月に笠間市立大原小学校4年1組において,

笠間市教育委員会主催「授業づくり研修会」の示範授業として,私が提案したものです。

この「かたつむり」の授業は,

「豊かな言語感覚を養う指導の在り方~詩の創作指導を通して~(4年間の継続研究から)」

の中で実施して以来,何度となく実践を積み重ね改良を加えてきたものです。

 

「かたつむり」は,8連構成の口語自由詩です。

奇数連と偶数連での語り手が異なっており,

そのかけ合いのおもしろさが児童の興味をひく詩です。

リズムが整っていて音読しやすく,暗唱教材としても適しています。

また,マイナス面をプラスとして捉えるものの見方・考え方について

考えを深める教材として有効です。

「かたつむり」の全文は次のようになります。

 

     かたつむり 

             リュー・ユイ作

             いでさわ まきと・やく

 

   かたつむり

   おかしいな 

    目玉が つのの上にある 

  

   おかしくない 

   おかしくない 

    目玉が 上ならよく見える 

  

   かたつむり 

   おかしいな 

    おうちをしょって 歩いてる 

  

   おかしくない 

   おかしくない 

    てきにあったら もぐりこむ 

  

   かたつむり 

   おかしいな 

    おなかがそっくり 足になる 

  

   おかしくない 

   おかしくない 

    足が大きけりゃ あんぜんだ 

  

   かたつむり 

   のろいなあ 

    動かないのと 同じだ 

  

   のろくたって 

   のろくたって 

    とまらなけりゃいいんだよ

 

この授業の目標は「詩の全文を暗唱すること」

「想像力を働かせながら詩を読み,

 語り手のものの見方・考え方について感じたことや考えたことを表現すること」

の二点としました。

そして授業仮説は,「展開法を用いて音読すれば,暗唱できるようになるであろう」

「展開法を用いて詩を読めば,ものの見方・考え方を豊かにすることができるであろう」

の二点としました。

読み取らせたい詩の技法は「視点人物の条件」「類比・対比」「反復」としました。

 

授業は概ね次のような流れで行いました。

  ① 本時の課題「詩を読み,感じたことや考えたことを発表しよう」を確認する。

  ② 第1連と第2連を読む。(視点人物の条件を確認)

  ③ 第3連と第4連を読む。(続きを想像させながら読む)

  ④ 第5連と第6連を読む。(かけ合いのおもしろさを読む)

  ⑤ 第7連と第8連を読む。(マイナス面をプラスと捉えるものの見方・考え方を読む)

  ⑥ 詩を音読・暗唱する。(役割分担をしながら読む。詩を少しずつ消しながら読む)

  ⑦ 詩を読んでの感想を書き,発表する。(人間の真実と美を捉える)

 

「展開法」とは,

始めの1行から終わりの1行まで順を追ってそのイメージと意味を追っていく方式です。

すなわち詩を題名から1行ずつ板書していき,

その先を想像させながら読ませていく方式です。

全ての詩に活用できるわけではありませんが,

児童の想像力を養うという点において有効であり,

暗唱させるという点においても効果的な方法だと私は捉えています。


⑤ 他教科等との関連で「かぼちゃのつるが」

 

「層序法」とは詩全体を相手どって,

表現の表層面から次第に深い象徴的なものにまで到るという方式です。

まず詩の形を見て,

使われている詩の技法に気づかせながら,

詩の描く真と美に迫っていくという方式です。

教室で通常行われている詩の鑑賞指導の形式により近いと言えます。

したがって「様子と気持ちの読み取りで終わりという授業」にならないようにするために,

指導者側の綿密な教材研究が必要です。

 

この「かぼちゃのつるが」の授業は,

「かたつむり」の授業と同様に,

「豊かな言語感覚を養う指導の在り方~詩の創作指導を通して~(4年間の継続研究から)」の中で,

私が実施したものです。

「かぼちゃのつるが」は,

1連18行構成の口語自由詩です。

詩の形の一例として,

句読点がなく切れ目が最後までないという特徴を児童に紹介できる作品です。

リズムがよく音読しやすいため,

暗唱教材としても適しています。

また,詩の技法「くり返し」や「擬人法」を読み取ることを通して,

語り手の願いや思いをつかみやすい詩です。

理科の学習との関連指導も図ることが可能です。

 

「かぼちゃのつるが」の全文は次のようになります。

 

     かぼちゃのつるが

                   原田直友

 

   かぼちゃのつるが

   はい上がり

   はい上がり

   葉をひろげ

   葉をひろげ

   はい上がり

   葉をひろげ

   細い先は

   竹をしっかりにぎって

   屋根の上に

   はい上がり

   短くなった竹の上に

   はい上がり

   小さなその先たんは

   いっせいに

   赤子のような手を開いて

   ああ 今

   空をつかもうとしている

 

この授業で読み取らせたい詩の技法は「反復」と「比喩(擬人法)」としました。

そして詩における「題名」の意味も考えさせたいと考えました。

そしてこれらの詩の技法を理解することを通して,

語り手の願いや思いをつかみ,

人間の真実と美を捉えさせたいと考えました。

 

授業は概ね次のような流れで行いました。

 

  ① 本時の課題「詩を読み、感じたことや考えたことを発表しよう」を確認する。

  ② 詩の全文を音読し形式を捉える。(句読点がなく切れ目がないという形式を知る)

  ③ 題名の意味を考える。(「が」の有無による違いを考える)

  ④ 詩の形式から気付いたことを発表する。(「反復」「擬人法」を捉える)

  ⑤ 詩の技法から語り手の願いや思いをつかむ。(強調している内容を読む)

  ⑥ 詩を音読・暗唱する。(役割分担をしながら読む。詩を少しずつ消しながら読む)

  ⑦ 詩を読んでの感想を書き、発表する。(人間の真実と美を捉える)


⑥ 詩を書く授業の入門として「すずめ」

  

この授業は,水戸市立石川小学校6年2組において,

2013(平成25)年1月30日に実施しました。

授業記録から導ける仮説は,次の2点としました。

 

 ・ 詩「すずめ」の構造を理解し,真似をすれば詩を書くことができるであろう。

 ・ 話者の視点を鳥にすれば,想像を働かせて詩を書くことができるであろう。

 

この授業は大きく分けて,二つの活動で構成されています。

前半で詩の構造を理解し,

後半でそれを参考にしながら詩を書く内容になっています。

1時間扱いの飛び込み授業が前提ですので,

前半部の指導をいかに効率よく進め,

後半部の詩の創作へとつなげられるかが課題となります。

展開の構想にあたっては次の2点を特に留意しました。

 

 ・ 詩「すずめ」の構造を理解すること(詩を読む授業)

詩の構造を理解するために教材の視写・音読を行いました。

そして,作者が経験的に知っていて書いている行と,

想像して書いている行を区別する活動を通して,

この詩が経験したことと想像したことで構成されていることに気づけるように配慮しました。

また題名当てクイズを行うことで,児童の興味・関心を高めました。

 

 ・ 想像を広げて詩を書くこと(詩を書く授業)

詩「すずめ」を真似して詩を書くことを伝えました。

その際,取材活動として「鳥の名前を1分間で書けるだけ書く」作業を行い,

その中から自分の書きたい鳥を選ぶようにさせました。

想像力を働かせて書くことができるように「その鳥になりきる」ことを呼びかけました。

なかなか書けない児童には,

冒頭に「わたしは○○です」の1行を入れるよう助言し,

その鳥になりきるための暗示をかけました。

それでも書けない児童には「すずめ」の構造を真似した穴埋め式のワークシートを渡し,

個別に支援しました。

 

「すずめ」の全文は以下のようになります。

 

     すずめ   秋原 秀夫

 

   羽の色も鳴き声も         

   目立ちませんが          

   朝は早起きです

 

   家の近くに住んでいますが

   人にはなれません         

   でも子どもは大好きです      

                  

   小さくて力が弱いので       

   仲間といっしょに行動します

   暴力はきらいです

 

   秋の田んぼではきらわれますが

   害虫を食べることも

   わすれないでください

 

   いつも明るく           

   たくましく生きたいと       

   思っています

 

この授業は,2時間扱いにして,

2段階の指導をするとより一層効果的です。

つまり一度完成した作品を,

次の時間で再度書き直させるということです。

 

当然その間には,

児童の推敲しようとする意欲を高めるための教師の手立てが必要です。

 

今回はその手立てとして,

授業の終末において「ニワトリ」という詩を提示しました。

この詩は私の作であり,

いい詩というわけでもありませんし,

モデルの詩とも違う形式ですが,

視点を変えて想像力を働かせることを重視したものです。

この詩の中の「トリニクめざしてがんばります」の行を音読した際に,

児童が大きく反応しました。

この詩を参考にして,自分の詩を見直し書き直している児童もいました。

完成すればおしまいというのではなく,

言葉やリズム・自分の思い等を大事にして,

自分の作品をより高めようとする態度も育てたいものです。

 

「ニワトリ」の全文は以下のようになります。

 

      ニワトリ   豊田 龍彦

 

   子どもの頃は ヒヨコと呼ばれ

   可愛がられて 育ちました

 

   オヤコーコーをしたいけど

   親のことはわかりません

 

   何だか とっても さみしくなって

   毎日 タマゴを 産んでいますが

   子どもが なかなか 生まれません

 

   昨日 初めて 庭を見ました

   青いお空が 見えました

 

   トリニクめざして

   がんばります

   願いは一つ 親子丼

   子どもといっしょが一番です

 

   何だか ちょっぴり ムナしくなって

   空に向かって

   なきました

 

   コッケイ ケッコウ

   ケッコウ コッケイ


⑦ 生活を振り返りながら「くりもただ」

 

日記を素材とした詩の創作指導を進めるにあたって,

「詩の技法を活用して詩を書こう」という授業を行いました。

 

この授業は,

東京書籍の小学校6年国語教科書(上)に掲載されている

4月の詩の創作指導単元「表現を工夫して書こう」を再構成し,

時期を入れ替えて実施したものです。

 

教科書通り4月に実施しなかった理由は,

指導対象の児童が「詩の創作指導の充実に必要な前提」をまだ満たしていない

と考えたからです。

また授業の流し方については,

私が2012(平成24)年に計画・立案した授業「散文を詩化する」が下敷きになっています。

 

この授業を通して,

児童は今まで書いてきた自分の日記を全て読み直し,

お気に入りの文章を詩の形に書き直す作業を行いました。

その過程で児童は自分自身の言葉の中から新たな発見をし,

その発見から新たな感動を覚え,

その感動を他者に伝えたいという願いをもつことができました。

 

授業の大まかな流れは次のようになります。

 

 ① 児童の日記の中からモデルとなる文章を提示する。

 ② その原文を分かち書きにして、元の文章と比較する。

 ③ 前述の詩の技法「くりもただ(※)」を活用して推敲する。

 ④ 元の文章と詩に直したものを比較・検討する。

 ⑤ 自分の日記を読み返し、詩の素材となる文章を探す。

 ⑥ 詩を書く。

 

 ※ 詩の技法「くりもただ」について

 

指導対象児童生徒の実態を考慮し,

詩の技法を大きく五つの項目に分け,

より平易な言葉にして整理したものが,

「くりもただ」です。

  ○ く りかえし → 反復・類比・対比・矛盾

  ○ り ずむ   → 行がえ・語調・韻・文末表現・体言止め・倒置法

  ○ も じ    → 漢字・ひらがな・カタカナ・句点・読点

  ○ た とえ   → 直喩・隠喩・声喩・活喩(擬人法)・視点

  ○ だ いめい  → 詩のゼロ行

 

「くりかえし」では,

まず反復(くり返し)を指導します。

類比・対比・矛盾については児童の実態に応じて説明を加えます。

 

「りずむ」では,

行がえをすることによって語調を整えたり,

文末表現に注意することによって韻を踏んだりすることを指導します。

体言止めと倒置法については,

伝えたいことを強調するために用いる技法であって,

厳密にはリズムを整えるためのものではありませんが,

ここではリズムを変えるものという観点から,

この項目内に分類しました。

 

「もじ」では,

特に漢字とひらがな・カタカナが生み出す効果の重要性について指導します。

さらに句読点の有無によって生まれる効果についても言及します。

 

「たとえ」では,

直喩・隠喩・声喩・活喩(擬人法)・視点人物の条件について指導します。

 

「だいめい」では,

題名の役割と題名のもたらす効果について指導します。


⑧ 卒業に向けて「たけのこ」

 

卒業詩集「巣立ち」編纂のために実施した

「たけのこ」の授業(比喩による詩の創作指導)について紹介します。

 

卒業文集というと,

テーマが「小学校生活の思い出」とか

「中学校に向けての抱負」であることが多く,

児童の書く文章が同じようなものになりやすいという問題があります。

そして堅苦しいイメージがあり,

個性的な表現が生かされにくい傾向があります。

 

しかし「卒業詩集」は,より自由な雰囲気で華やかさがあり,

そこに寄せられている詩はバラエティに富んでいます。

また既存の一般的な卒業文集に比べて,

児童の思いがよく表現されており,読み手も楽しむことができます。

 

そこで,小学校最後の詩の創作指導単元を構想しました。

小学校を卒業するにあたって,

将来のイメージを「たとえ」(比喩)を使って詩で表現する,

という単元です。

 

比喩は詩の技法の基本の一つです。

詩のテーマを比喩で表すと,

子どもたちの考え方を引き出しやすいことが明らかになっています。

「比喩による詩の創作指導」は,

「生活思想詩」を作り出す方法として有効なことも分かってきました。

 

構想した授業案及びモデルとした詩を以下に引用します。

 

   みなさんは,もうすぐ,卒業ですね。

   これから,どんな人になりたいですか。

   「もの」にたとえて,書いてみましょう。

   たとえる「もの」の特長を,しっかりとつかんで,

   自分の「思い」をかさねて,詩の形で書いてみましょう。

   ●●くんは,絶対にプログラマーになりたい,と思っています。

   その「思い」を「たけのこ」にたとえて書きました。

 

     たけのこ   6年 ●●●●

 

   ぼくは たけのこのような

   人間になりたい。

   たけのこは 先がとがっていて

   根性が あるように見える。

   いや ほんとうに あるのだ。

   どんな悪条件の中でも

   天をめざして すくすく伸びる。

   人に食べられたり 虫にくわれたりする。

   そのいくつもの難問をのりこえながら。

 

   ぼくもプログラマーの道をはずすことなく

   大きくなっていく。

   たけのこのように

   これからも ずっと

   一つのことをめざし

   そして 大人になっても

   竹のように

   しなったり ゆれたりしながら

   時のながれにさからわずに

   時代を生きぬいていきたい。

 

   「プログラマーになりたい」という「思い」と,

   「たけのこのように生きたい」という「たとえ」が,

   よく合っていますね。

   みなさんも,将来なってみたいことを決め,

   「もの」にたとえて,詩を書いてみましょう。

   詩が書けたら,文集を作って,みんなで読み合いましょう。

 

この授業案を踏まえ,

次の流れで授業を行いました。

 

 ① 作品「たけのこ」を読んで感想を書く。

 ② 将来の「なりたいもの」を考える。

 ③ たとえる「もの」を決める。

  ※ なりたいものとたとえる「もの」の例を紹介する。

 ④ 「くりもただ」を活用しながら詩を書く。

 ⑤ 比喩を使った創作の感想を書き、友達と交流する。

 

 この授業を実施するにあたっては,

 次のようなワークシートを活用しました。

(1) 作品「たけのこ」の感想(                 )

  (2) 自分は、(          )になりたい。

     将来、(           )のような大人になりたい。

  (3) たとえるもの(       )

     理由や特長(                       )

  (4) 「くりもただ」を活用しながら詩を書く。

  (5) 詩を書いてみて(                     )

 

なおこの実践を通して編纂した卒業詩集「巣立ち」は,

追加資料(別冊)として保管しています。


お問い合わせは豊田龍彦まで。

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